(後編です。前回まではこちらからお読みください。)
労働時間とは労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間を指し、移動時間が使用者の指揮命令下に置かれていると評価された場合は労働時間となり、使用者の労働者に対する賃金支払い義務が発生します。
ここからは出張と直行直帰における労働時間の考え方と具体的な事例を紹介していきます。
出張のための移動時間についても、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まる」という基準によって判断されます。
出張のための移動は会社の指示に基づくものですが、判例(横浜地判川崎支判昭和49年1月26日、日本工業検査事件)では「出張の際の往復に要する時間は、労働者が日常の出勤に費やす時間と同一性質であると考えられるから、右所要時間は労働時間に算入されない」との結論を下しています。ただし、会社の指示で業務に用いる機材や物品等の管理・運搬のために出張する場合は、移動時間も業務に従事し使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるため、移動時間も労働時間に当たるとの判例が出されています(東京地判平成24年7月27日、ロア・アドバタイジング事件)。
つまり、「出張のための移動時間に具体的な労務の提供が伴うものであるかが判断の分かれ目」となります。
直行直帰の移動時間については、基本的に通勤時間とみなされるため労働時間には含みません。
最初の訪問先を訪ねた時間が始業時間
最後の訪問先を出た時間が終業時間
ただし、「顧客をエスコートしながら移動する」「会社から業務に用いる機材や物品等の管理や運搬を指示されている」などの場合は、移動時間に具体的な労務の提供が伴うため、労働時間と認められる可能性が高いです。また、使用者から集合時間と場所を指示され、集合してから訪問先に向かう場合は、集合時間から労働時間と認められる可能性が高いです。
出張や直行直帰の移動時間が労働時間に含まれるための要件として、労働者が移動時間も使用者の指揮命令下に置かれているかどうかが判断のポイントとなります。出張や直行直帰の移動時間に対する取り扱いについて、会社側は規定を確立しておくことをおすすめします。明確なルールがあることで、社員とのトラブルも防げ、適切な労務管理が可能となります。